「移調」という言葉を知っていますか。音楽の専門用語なので、あまり馴染みがない方もいるかもしれません。簡単に言うと、「曲全体の音の高さをずらす」作業です。
カラオケのキー調節を想像してもらうと分かりやすいかもしれません。あれも移調の一種です。+2とか-3とか、ボタンひとつで音の高さが変わりますよね。楽譜の移調も、やっていることの本質は同じです。ただし、楽器の種類や調性の考え方が絡んでくると、もう少し複雑になります。
今回の依頼——歌手のキーに合わせた童謡アレンジ
以前OEMメーカーで働いていたご縁で、おもちゃ向けの音楽制作に関わる機会がありました。その仕事のひとつに、移調を含む楽譜制作がありました。ボタンを押すと歌が流れる本のためのアレンジで、著作権フリーの童謡を歌手のキーに合わせた高さに調整し、さらにレコーディング用の楽譜として仕上げるという内容でした。
歌手によって声の高さには個人差があります。ある曲の「原曲キー」が、必ずしもその歌手にとってベストとは限りません。今回は、実際に歌う方に合わせた高さに童謡を移調して、それをレコーディングで使えるクオリティの楽譜にまとめる、というのが私の仕事でした。
ソフトウェアによる移調と、その後の確認作業
移調そのものは、楽譜制作ソフトがあれば機械的にできます。私が使っているMuseScoreには移調機能があって、半音いくつ上げる・下げると指定すれば全パートの音を自動で動かしてくれます。これは本当に便利で、昔の手書き時代のことを考えると、ソフトウェアのありがたさを感じます。
ただ、自動移調したあとに必ず確認と調整が必要です。音の高さは正しく変わっていても、たとえば移調後に弾きにくい調になっていないか、音域が極端に高くなって演奏が困難でないか、といったことを見ます。今回は童謡なので複雑な展開はないのですが、それでも丁寧に確認する習慣は大切にしています。
「レコーディング用の楽譜」とは何か
「レコーディング用の楽譜」と「演奏用の楽譜」は、何が違うのでしょうか。
端的に言うと、「誰が、何のために使うか」が違います。演奏用の楽譜は、演奏者が舞台や練習で使うもの。強弱記号やスラーなど、演奏表現の指示が丁寧に書かれていることが多いです。
レコーディング用の楽譜は、スタジオで録音するときに使うもの。テンポや構成が明確であること、音符の誤植がないこと、必要なパートが揃っていることが優先されます。レコーディングは時間がお金に直結する現場なので、「楽譜を見ながら迷う」という状況は極力避けたい。そのための情報が過不足なく入っていることが大切です。
今回のケースでは、歌のメロディとピアノ伴奏のパートに分け、テンポや拍子の情報をきちんと整備して納品しました。見た目の美しさより、現場で使いやすいことを意識しました。
楽譜制作やアレンジのご依頼は、Atelier Noteのサイトからどうぞ。
「こんなことできる?」という段階の問い合わせでも歓迎しています。