2つの楽器のために楽譜を作る——ヴィオラとピアノのアレンジの話

あるとき、演奏者のお父様からご連絡をいただきました。「娘がヴィオラを弾いているのですが、この曲をヴィオラとピアノで弾ける楽譜にしてほしいのです」というご依頼でした。

元の曲は、バイオリンをフィーチャーしたオーケストラアレンジ。それを2人の編成——ヴィオラとピアノ——に変換してほしいということでした。

依頼の背景にあったもの

依頼の背景を少し聞かせていただいたとき、温かい気持ちになりました。娘さんのために、演奏できる形を整えてあげたい、ということでした。アレンジを頼もうと思ったこと、どこに頼めばいいかを調べてたどり着いてくださったこと。そういうことを想像すると、丁寧に作りたいという気持ちが自然と湧いてきます。

技術的な話をする前に、まずそのことを書いておきたかったのです。楽譜って、誰かのために存在するものだなと、この仕事を通じて改めて感じました。

オーケストラから2つの楽器へ——取捨選択の作業

さて、実際の作業についてです。オーケストラの曲を2つの楽器に落とし込む作業は、「何を残して何を省くか」の判断の連続です。

オーケストラには、弦、木管、金管、打楽器と、たくさんの楽器が重なっています。それを2つに絞る、というのは、情報の取捨選択です。全部残すことはできない。ではどれを残すか。

私が考えるのは、まず「その曲らしさはどこにあるか」です。メロディはもちろん残します。でも、曲の雰囲気を決めているのはメロディだけではなくて、ハーモニーの動きだったり、リズムのグルーヴだったりする。それを失うと「なんか違う」という仕上がりになってしまいます。

だから、聴こえなくてもよい音と、なくなるとまずい音を分けていく作業が必要です。これは感覚的な部分もあるのですが、慣れてきたとはいえ、毎回一定の時間をかけます。

ヴィオラの音域を意識したパート作り

今回特に意識したのが「ヴィオラの音域」でした。

同じ弦楽器でも、バイオリンとヴィオラでは音域が違います。バイオリンの高音域の旋律をそのままヴィオラに移すと、弾けない音域になることがあります。また、ヴィオラには独特の落ち着いた音色があり、高音が苦手なかわりに中音域が豊かです。

今回の元の曲はバイオリンがメインだったので、旋律をヴィオラ向けに移調・調整しながら、音域が自然に収まるように考えていきました。「この音、ヴィオラで弾いたとき窮屈じゃないか」と確認しながら、必要に応じてオクターブを調整したり、フレーズの跳躍を和らげたりしました。

ピアノ側は、オーケストラのハーモニーや対旋律のうち「残したい要素」を整理して振り分けました。ピアノは1台で和音も旋律も表現できる楽器なので、2つの楽器でのアレンジでは縁の下の力持ち的な役割を担うことが多い。ヴィオラを引き立てながら、曲の厚みを補う形を探りました。

楽譜だけでない納品——練習用音源の制作

納品は楽譜だけではありませんでした。「練習のときに合わせられる音源も欲しい」というご要望があり、ピアノ伴奏にヴィオラのフレーズをフルートで演奏した音源も作成しました。フルートにしたのは、音が聴き取りやすく、メロディラインを耳で追いやすいからです。

この音源はMIDIでリアルタイム録音しました。機械的に打ち込むのではなく、自分で演奏しながら録音することで、アーティキュレーション(音のつなぎ方)や強弱など、表現を自分の意図通りに込めることができました。「ここは少し間を取りたい」「この音はふっと抜いたほうがいい」——そういう細かい感覚を、音源に乗せることができます。

編成変換という仕事の本質

この依頼は、私にとって「編成変換」という作業の本質をあらためて考えさせてくれるものでした。アレンジというと「曲に手を加える」というイメージがあるかもしれません。でも編成変換は、むしろ「曲の何が大切かを見極めて、別の形に移し替える」作業です。

余計なものを足すのではなく、元の曲への敬意を持ちながら、新しい編成で息をさせてあげる。そんなイメージを持っています。

ヴィオラとピアノ、弦楽器と鍵盤楽器の組み合わせなど、編成変換・アレンジのご依頼はAtelier Noteへ。
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kikka

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楽譜制作・アレンジャー / Atelier Note 主宰

国立音楽大学卒。楽譜制作・耳コピ・アレンジを専門とするフリーランスのアレンジャー。 「楽譜はアート」をモットーに、一人ひとりのための楽譜を丁寧に制作しています。

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