同じ作曲家の同じ曲なのに、楽譜が何種類もある。しかも値段も見た目も全然違う。クラシックピアノをやっていると必ずぶつかるこの疑問、整理してみました。
まず「原典版」と「校訂版」の違いから
楽譜は大きく2種類に分かれます。
Urtext
原典版
作曲家が実際に書いた内容をできる限りそのまま再現した楽譜。強弱・スラー・ペダル指示なども、作曲家本人が書いたと確認できるもの以外は載せない方針。「作曲家は何を意図していたのか」を自分で読み解くための楽譜。
Edited Edition
校訂版
演奏家や研究者が現代の演奏に合わせて運指・強弱・フレージングなどを書き加えた楽譜。どう弾けばいいかのヒントが豊富に書かれているため、学習の入り口としては使いやすい。
主な版の特徴
原典版
ヘンレ版
G. Henle Verlag
- 1948年創業のドイツの出版社。表紙は通称「ヘンレ・ブルー」
- 作曲家本人が書いたと判断できるもの以外は一切加えない方針
- 運指はほぼなく、情報量は最小限。自分で解釈したい人向け
- プロアマ問わず世界的に信頼度が高い。原典版の代表格
原典版
ウィーン原典版
Wiener Urtext Edition
- 表紙は赤。音楽学者と世界的演奏家の共同作業で編集
- アシュケナージ、ブレンデルなどが校訂に関わっている
- 原典版でありながら運指や解説が比較的充実しており、学習にも使いやすい
- 日本語版は音楽之友社より刊行
原典版
ベーレンライター版
Bärenreiter
- 1923年創業のドイツの学術的出版社。ロゴに熊のデザイン
- 原典版として高い評価。バッハやモーツァルトの研究に基づく精度の高い編集で知られる
校訂版
ペータース版
Edition Peters
- クリーム地に緑の装飾枠が特徴的。明治時代から日本に入ってきた歴史ある版
- 校訂版でも、編集者が加えた部分をカッコ書きで区別している場合があり、原典との違いが見やすい
日本版 / 校訂版
春秋社版
Shunjusha
- ハードカバー付きの白い本。日本の出版社
- ピアニスト・井口基成による校訂。運指が豊富で、手の小さい日本人向けの配慮あり
- 製本が非常に丈夫
- 音大では敬遠されがちだが、原典版と併用すれば優れた参考書になるという評価もある
日本版 / 校訂版
全音楽譜出版社
Zen-on Music
- 日本の出版社。安価で手に入りやすい
- 初心者から広く使われている入門的な位置づけ
どれを選べばいいのか
原則として、まず原典版で作曲家の意図を確認し、校訂版を参考書として使うというのが王道とされています。
目的別・版の選び方
- 自分で解釈したい→ ヘンレ版
- 世界的演奏家の解釈を参考に→ ウィーン原典版
- 運指で困りたくない→ 春秋社版を手元に
- バッハ・モーツァルトを深く→ ベーレンライター版
同じ曲の複数の版を見比べることで、「この記号は作曲家が書いたものか、後から誰かが加えたものか」が見えてきて、曲の理解が深まるという面白さもあります。
楽譜の版の違いは「誰が何を書き加えたか」の違いです。それを知るだけで、楽譜の読み方が変わってきます。