子どもが夢中になるおもちゃの音——「ピンポン♪」「やったー!」「むかしむかし…」。何気なく耳にしているあの音たちは、実は音楽のプロが丁寧に設計したものです。
制作を担うのは、音楽大学や専門学校出身のクリエイターが所属する音楽制作会社。あるいは、メーカー社内に専門職として音楽クリエイターが在籍しているケースもあります。
私は後者——玩具・知育教材メーカーの社内クリエイターとして、音楽制作・企画営業・生産管理の3役を約20年にわたって担ってきました。
制作の流れ
仕事の範囲は広岐にわたります。商品コンセプトに合わせたサウンドの提案から始まり、作編曲・効果音制作・データ納品まで。さらにメーカー側の人間として、中国の製造工場に向けた仕様書の作成も欠かせない業務でした。プログラマーが正確に理解できるよう、商品の動きと音の対応関係を一つひとつ言語化する、地味だけれど重要な仕事です。
そして見落とされがちなのが、ICチップの選定です。MIDIメロディの有無、効果音の数、各音源の秒数——これらの仕様によって使用するICの種類が変わり、コストと最低発注数(ミニマムロット)が大きく変動します。だから「とりあえず作ってみて」では済まない。企画の初期段階から、音源が何秒いくつ必要か、MIDIは使うかどうかを決めておく必要があるのです。
私がいつもやっていたのは、クライアントから簡単な商品イメージを受け取ったら、すぐにヒアリングをしながら仮の音リストを作ること。秒数を仮決めして、早めにコスト感を掴む。実際に作り始めてわかることも多いので、最初から完璧を求めず、でも大枠は外さない——そのバランスが大事です。
もう一つ私が重宝してきたのが簡易フローチャートの作成です。「このボタンを押したらこの音が出て、次にこの動きをしたらこの音声でユーザーに伝える」という流れを図で整理することで、音の設計を商品企画の段階から組み込めます。既存の商品を幅広く研究しながら、ユーザー体験から逆算してサウンドを設計する——それが私のやり方です。
意外と知られていないこと——おもちゃの音には独特の制約がある
一般的な音楽制作とおもちゃの音楽制作が大きく違うのは、ハードウェアの制約の中で作るということです。
まず音質について。安価なおもちゃに使われるICチップのサンプリングレートは、12kHz〜16kHz程度が良いところです。CDの音質が44.1kHz、配信音源でも多くが48kHz以上であることを考えると、かなり低い数値です。「音が少しこもって聴こえる」のはそのためで、制作段階からこの音質を前提に音を作る必要があります。
スピーカーも小さい。直径27mm〜40mm、大きめのおもちゃでも65mm程度のモノラルスピーカーが一般的です。ステレオ再生はできないので、音源もモノラルで制作するのが基本です。凝ったステレオミックスを作っても、おもちゃの中では意味をなしません。
ループ再生にも落とし穴があります。同じ曲を繰り返し流す場合、曲の終わりと始まりの処理が甘いと、つなぎ目でブツッとノイズが発生します。これを防ぐには、波形レベルでの丁寧な処理が必要で、意外と時間のかかる作業です。
そして、子ども向けのBGMやメロディはテンポを遅めに設定する——これは頭ではわかっていても、実際には想像以上にゆっくりです。自分が「ちょっとゆっくりかな」と感じるテンポより、さらにもう一段落とすくらいがちょうどいい。子どもがメロディを認識してノリやすいテンポは、大人の感覚より遅いのです。
テンポだけでなく、セリフ・ナレーションの読むスピードも同様です。大人には少しもたつくように感じるくらいのゆっくりさが、子どもにはちょうどいい。
また、子どもに受け入れられやすい「声」というのがあります。明るく、はっきりしていて、親しみやすい声質——そういった特性を持つ声優さんは限られていて、専門のエージェントやディレクターにアテンドしてもらい、複数の候補から選ぶのが一般的です。選定が決まったらレコーディングへと進みます。
まとめ
おもちゃ・知育教材の音楽制作は、一般的な音楽制作とは異なるハードウェアの制約と、子ども向けならではの感覚的なノウハウが求められる、専門性の高い仕事です。
「こんな商品を作りたいけど、音まわりをどうすればいいかわからない」という段階からでもお気軽にご相談ください。
Atelier Noteでは、サウンドの企画・提案から作編曲・効果音制作・データ納品まで対応しています。さらに声優の選定からレコーディングまでもワンストップでお受けすることができます。